チャプター6 〔仕上げ 3〕
いよいよ最終章となりました。約半年にわたって連載してまいりましたが、お役に立てたでしょうか? もう少しです。最後までお付き合いください。
《1時間15分00秒〜1時間15分35秒》
バックは繋がった空間です。ただの余りではありません。大半の初心者の方は、まずモノを描き終わってから「さぁ、あとはバックを塗っておしまい」とばかりにバックを一気に塗って仕上げます。以前にも書きましたが、バックはとても重要な脇役ですからモノを描き進めるときに一緒に進めていくことをお勧めします。先にモノができてしまったあとでバックをあとから塗ることは、実はとても難しい事なのです。なぜなら、バックなしで描き進めたモノたちは、白バックに合わせて描かれているので、あとから急にバックを変えてしまうとモノとバックがかけ離れたものになる恐れが大きいからです。遠くのモノを薄くして白バックに溶け込ませていたのに、急にバックを暗く(濃く)したら遠くのモノはどうなるでしょうか? ちょっと考えてみてください。
《1時間16分58秒〜1時間17分27秒》
最後にさらに遠くから客観的に見て、直すべきところを確認します。この行為は何度やっても多すぎることがありません。その都度何かを感じるはずです。そして、ストップをかけるのも自分です。ここで辞めるのか、手を加えるのかを判断することが水彩画の場合特に大事だと思います。途中でも言っていましたが「一歩手前」というのが水彩画の“止め時”だと思います。でも、この一歩手前で止めることがどれだけ大変なことか、絵を描いている方ならよくお分かりだと思います。
《1時間17分37秒〜1時間18分02秒》
具体的な直しのポイントを瞬時に判断し的確に説明してくれていますね。これができるのが永山さんの凄さなんだと思います。ここらあたりで、たいがいの方はどうしていいかわからなくなって“先生に聞く”か“描きすぎが怖いので止める”のどちらかを選択するんだと思います。何も考えず時間まで描き続けるのは問題外です。本当に正しい行動は、よく吟味して自分なりの判断をした上で描き加えるか止めるかの判断をすることです。仮に失敗してもそれが一番勉強になるし、身に着くと思います
《1時間18分04秒〜1時間19分45秒》
白と黒についてのお話ですね。これは、透明水彩の最も特徴的で最も重要なテーマだと思います。透明水彩の白と黒については様々な意見があると思います。基本的にやってはいけないことはないと思います。ただ一つ言えるのは、透明水彩絵の具を使う以上、透明水彩でしかできない表現をしたいですねということです。白のガッシュを使うことも効果的であれば積極的に使っていくべきだと思いますし、黒をきれいに見せられたら魅力的な作品に仕上がるでしょう。せっかく透明水彩という興味深い素材を使うのですから、別の素材で描いたようではつまらないかな…ということかな。永山さんは紙の白とガッシュの白を“別の色”として使っていますね。それはさらに高度な次元での判断があってのことだと思います。
《1時間21分56秒〜FINISH》
ここから永山さんの筆は急に大胆に画面全体を行ったり来たりしたと思うと、細かいところを繊細に描き加えるという具合で激しく動き回ります。これは、“最後の全体調整”をしているのでしょう。この時、筆だけでなく目も画面の上をくまなく眺めまわしているはずです。全体を見渡して感じたことをディテールから全体イメージまでチェックし絵としての完成に向けて一気に上りつめていくところです。そして、「ここまで!」という判断の下、完成となります。今回は、時間の限られたDVDということでサインまで入れていただきましたが、本来は、数時間後または翌日見直して良ければ完成としてサインを入れる、悪ければさらに描き加えるというプロセスがあることをお伝えして、終わります。
今回で第一弾“永山裕子 薔薇を描く”の独断と偏見に満ちた解説を終わります。少しでも皆さんの上達のお手伝いができたのであればうれしいです。永山さん、勝手な解説、ごめんなさい。こんな勝手を容認してくれた永山さんに改めて感謝しています。
長期間ご愛読いただきましてありがとうございました。
横浜画塾 笠井一男