チャプター6 〔仕上げ 1〕
《1時間03分35秒〜1時間04分36秒》
さぁ、終盤にさしかかってきました。フィニッシュに向けての客観的な姿勢が、永山さんの言葉や所作から感じることができると思います。『一歩手前で止める』永山さんの口調も一段と強くなっていますよね。簡単なことのようでこれがとても難しいことだと永山さん自信が強く感じている証拠でしょう。実際に“描き足りない”と“描き過ぎ”の間に必ずあるはずの“調度いい”ところを察知する完璧な客観性が持てたらと、よく思います。ゴルフで言えば“砲台グリーンの頂上に切られたカップにチップインで入れるようなもの”かな?
《1時間04分37秒〜1時間04分49秒》
何も説明がないので見過ごしがちですが、このタイミングで薔薇にスプラッタリング(またはドロッピング)を施していますね。しかもピンクの薔薇の中心辺りにトランスルーセントオレンジをピッピッと。なぜ??? でも結果を見るとうなづかざるをえません。花の中心から放たれる芳香であり、花粉であり、花の中の空間であり、生命力そのものだったり。このピッピッがもたらす効果は絶大です。ここら辺にも“永山マジック”がよく表れていると思います。
《1時間05分00秒〜1時間07分02秒》
さきほども書いた通り、客観性を保つのは容易ではありません。まだ小さい画面(F6号位まで)だったら客観的に見ることはさほど難儀ではありませんが、F8号を超えると描いている画面が両目の視界から出てしまう(いっぺんに端から端が見えない)ので、離れてみることが必要になってきます。デジカメで撮って見るのもいいですね。ただ、デジカメの画面で見ると密度が上がってよく見えたりするので、別な意味で客観性をもって、ぬか喜びしないで厳しく自分を見つめることも必要になってきます。逆に、自信のない時はデジカメで撮って悦に浸り、それをきっかけにスランプ脱出もいいでしょう(笑)。
《1時間07分06秒〜1時間07分44秒》
ここでも“永山マジック”の真髄が出てきます。『しみや模様はぜんぜん問題にしていません。』この件はまさに“永山流”。DVDの付録リーフレットに書かれている永山さんの言葉を思い出してください。(以下引用)水のおもむくままに、絵の具のおもむくままに、紙ですらも季節を感じ取りながら、ゆっくりと、時に風の力を借りてすばやく乾く。にじみやぼかしは、そうした自然に起きる力の結果であり、それを生かしながら筆を入れていく。これが水彩画の魅力だと思います。(以上引用終)まさに、その通り。感服。
《1時間08分23秒〜1時間08分54秒》
光は大概の場合、上から降り注ぎますね。下から光が来るのはドガの「踊り子」のような舞台とか建築のライトアップのような特別な状況しかありません。上から光が射すということは単純に言えば、上を向いた面が明るくなり、下を向いた面が暗くなるということです。この洋梨の場合もそうですが、上を向いた面に光が当たり、その後ろに洋梨の“陰”の部分があるので前の洋梨の輪郭はクッキリハッキリします。また洋梨の下半分は下を向いた面なので暗く、さらに自身の“影”の中に入るので光が少なく薄暗いため、下半分の輪郭は弱くなる(あるいは見えない場合も)わけです。みなさん、見えないところまで“よく見て”クッキリと輪郭を浮き上がらせたいようですが、実は“よく見る”と輪郭はすごくハッキリしたり、ぜんぜん見えなかったりしているものです。それが“自然”なのだと思います。
つづく>>