チャプター4 〔貴重な白 4〕
この辺りが否応なしに永山裕子という人の非凡さを感じるところなのではないでしょうか?ほとんど手(筆)をつけないバラの花が、見る見る光を浴び生き生きと輝き出す過程を目の当たりにした時、「あーっ!」というため息とも歓声とも言えない驚きの声を自然に発していると思います。これが私たちが“永山流”と命名した所以です。
《35分14秒〜35分43秒》
ここでカメラが引くと驚きの光景が現れます。なんとすでにバラがきれいに浮かび上がって輝いているではありませんか!
さっきから葉っぱしか描いていないのは皆さんが見ていた通りです。私は現場にいましたが、編集でつないでいるわけではありませんし、料理番組のように時間をかけて描いたものと取り替えているわけでもありません。水彩画の技法でいう“Negative Painting”=“塗り残し技法”ですが、永山さんの塗り残し効果は尋常じゃないですね。バラの花自体には、中心からのトランスルーセントオレンジのグラデーションとザラザラした調子くらいしかありません。その周りに濃度のある葉っぱを描くと、いきなりバラの花が浮び上がってきます。ここが、このDVDの最初の見せ場と言えるかもしれませんね。
《36分28秒〜37分18秒》
補色(逆の色)を混ぜ合わせると彩度(鮮やかさ)は極度になくなり、濁った色(場合によってはグレー)になります。こうしてできた色は、言葉で言い表せない「これ、何色?」というようなとても微妙な調子になり、影の色としても使えますし、今回のような錆びた金属などのように時間の経過を感じさせる色としても使えます。ただ、使いすぎると全体に濁った印象になりやすいので気をつけてください。また、以前、“気付き”の水彩日誌Vol.1 『混ざらない絵具』で書いた“沈殿する絵具”の効果についても触れていますね。混ぜた色が紙の上で分離する効果はとても面白いので、私もよく使っています。
《37分20秒〜38分08秒》
前にも出てきた「自然の力、偶然の力」について、私以上に永山さんがこだわり楽しんでいることがよくわかります。そして、バラの葉を絵具の特性を利用して描くという裏技まで披露してくれるとは・・・。誰に教わったのでもなく、自分で見つけて検証し技法として身につけた貴重なノウハウを惜しげもなく見せてくれるなんて、なんとオープンなんでしょう!永山さんが言っていた言葉を思い出します。『水彩画については隠すことは何もないんです。すべてさらけ出しても大丈夫。』と。この開放的な姿勢はどこから来るのか?
私が推測するに(本人は否定するでしょうが)、圧倒的な自信があるからだと思います。そうそう、以前こんなことも言っていました。『DVDですべて出して追いつかれるかもしれないけど、反対に頑張らなきゃと思うので、自分を追い込む意味もあるかもしれません。』 脱帽。
つづく>>