チャプター4 〔貴重な白 7〕
《45分44秒〜46分48秒》
“永山流”のとても重要な技法が施されている部分だと思います。普通皆さんは、しっかりと物の姿を現わすことに力を集中させますよね。でも、「永山さんは違う」ということがここでわかります。そうです、ここでやっていることは物の姿を“曖昧に”“わからなく”しているのです。形がはっきりしている水差しのところに絵具を垂らし、それを広げて形を曖昧にして奥に引っ込めたり存在感をなくしたりしています。主役のばらを引き立たせるための脇役作りをしているとも言えます。全体の構成を考えながら「この水差しは目立たなくていい」という判断から、一度描きかけた輪郭を消す作業に変更したのだと思います。描かないという判断が大事なのです。
《46分50秒〜47分34秒》
ここは色のつながりの解説としてサラリと過ぎていくので見落としがちですが、一度描いた花の陰の中を曖昧にしたりしています。下の器の影に使った色(ターコイズ)を薔薇の花の陰の部分にも関連付けて使いながら、影の中のコントラストを弱め曖昧さを作ることで光の当たった花びらを引き立たせるようにしているのだと思います。このコントラストの強弱や輪郭の有無を完璧にコントロールしていくことが“永山流”のもう一つの奥義だと、私は思っています。
《48分12秒前後》
ぼかした水差しの上に、ダリアに使ったオレンジ色をドロッピングしています。Vol.9でも触れていますが、この水差しが奥のほうにあることを強調するためにその前に“空間”を感じさせたかったのではないでしょうか?いつも画面全体に意識が行き届き、まっ平らな画面の中にゆったりとした“奥行き”を感じていることがわかります。
《47分38秒〜48分27秒》
『ダリアが大きすぎるので縮めながら描いていきます』といいながら、花自体には手をつけずバックから攻めてダリアのギザギザした形を浮き上がらせていきます。ここでも“ネガティブ・ペインティング”の技法がふんだんに出てきましたね。花を描くと言いながらバックを描いているわけです。
■■■エピソード■■■
ネガティブペインティングについて
先日第2弾の撮影の時に永山さんと私でこんな話がありました。笠井『「紙の白に一度だけ塗った色が一番きれい」ということと、「主役はしっかり描く」ということと矛盾しない?しっかり描いたら絵具は何重にも重なって濁ってしまいますよね?』永山『私の究極の理想は「主役は手をつけずに主役にするということ。難しくて私にはできないけど』(笑)笠井『カサブランカの花びらには一切触れず、バックと葉とシベだけ描いて立派に咲かせたいものですね。』このやりとりから透明水彩のネガティブ・ペインティングが少し理解していただけるのではないでしょうか。
つづく>>