『永山流 水彩画法 -永山裕子 薔薇を描く-』を10倍楽しんでください! Vol.16
チャプター6 〔仕上げ 2〕

《1時間09分08秒〜1時間10分42秒》
9分08秒、私の声を消し忘れていることを見つけてしまいました。以前から生徒さんに「笠井先生の声が入ってますよ。」と言われてはいたんですが…。(苦笑)さて、ここはとても大事なことをお話しています。輪郭については前回も書きましたが、今回はより具体的な例をあげながらわかりやすく説明してます。周りの葉や奥まった暗い部分を描くことでバラの花を浮き上がらせる、いわゆる“ネガティヴ・ペインティング(塗り残し)”技法をより高度に使いこなすコツがここにあります。輪郭すべてをハッキリ、クッキリさせるのではなく、光のあたっている側はクッキリとして、陰(影)の中は弱くあいまいにした方が自然で“空気”や“光”を感じ、モノが“在る”ことを表現できるということだと思います。実際、そう見えていると思います。
永山流 水彩画法

《1時間10分56秒〜1時間11分24秒》
「透明水彩絵の具は、重ねれば重ねるほど透明感が出る」と言っていますね。ここは私はちょっと見解が違います。それは、簡単に言うと「それは永山さんだから」ということです。ふつうは重ねすぎて濁る場合の方が圧倒的に多いのが実際です。では、なぜ永山さんは重ねるほど透明感が出るのか。一つには、完全に乾いた上に重ねているということ。決して生乾きの上に次の色は置いていません。さらに決定的なことは、抜群のバルール(「色価」と訳される)感覚で描かれていることだと思います。永山さんは、「濁った色も“色”だから」と言っている通り、正しい色を正しい場所に置いていくことですべての色がいきいきとしてくるわけで、これは凡人にはできないことだと思います。卓越したデッサン力と色彩感覚を駆使して実現するものだから。

《1時間12分07秒〜1時間12分45秒》
自分の絵を客観的に見て“何をすべきか”判断することがいかに大事で、いかに難しいか。実は描ける人ほど客観的に見ることを大事に考えています。経験が浅い人は描くことに一生懸命で客観的に見る余裕がありません。ちょっと離れてみたり、さかさまにしてみたり、鏡に映してみたり、写メで撮ってみたり…そういう客観的な“目”を持つことがいかに大切かを永山さんは教えてくれています。今回は限られた時間の中での収録なので描き続けてもらいましたが、本当は、しょっちゅう立ち上がって離れて見たかったに違いありません。私も、絵の仕上げ近くになると止め時の判断も含め客観的に見る時間が長くなります。後半は、描いている時間より見ている時間の方が長かったりします。
永山流 水彩画法

《1時間12分55秒〜1時間13分21秒》
ここもさりげなく過ぎていきますが、大変高度な判断があるように思います。「ここの眩しい光がきれいなので、あえてこの辺は輪郭をつぶしちゃいます。」なぜ光がきれいな事とお皿の輪郭をつぶす事が関係あるのか。この判断をどう見ましたか? 
私は、先ほども出てきたとおり光の当たっているところはハッキリ、クッキリ、陰(影)の中は輪郭があいまいで鈍いということだと思います。皿の前の輪郭を弱めることで奥に当たった光をより印象的に見せる計算があるのだと思います。

《1時間14分05秒〜1時間15分00秒》
この左下の白い空きは画面全体からみると“貴重な白”として残しておきたいところです。全体に色が満遍なく塗り込まれた絵も密度があっていい場合があり、一概に言えませんが、この場合左下の白は“息抜き”としても画面全体の緊張感を和らげる大事な役割を担っている気がします。それをただの紙白で残すのでなく、目地の線だけ入れてタイルの質感を出そうというわけです。何も塗っていない紙白が存在感のあるモノとして見えてくることは、水彩画の一つの大きな魅力ですよね。
永山流 水彩画法

つづく>>