永山裕子×笠井一男 特別対談 第二回
今回のテーマは、お二人が講師を務める水彩画の教室について。大塚アトリエを主宰している永山さんと、横浜画塾を主宰している笠井さん。教室での出来事や、教室に対する思いなどを、話して頂きました。ご自身の作品制作とは違う、講師としてのお二人のお話をお楽しみ下さい。

横浜画塾授業風景

永山(以下、永):私も笠井さんもそれぞれ教室をやっているんですが、教室やっていると面白いことがたくさんありますよね。例えば生徒さんを比べてみると、男性と女性って絵を描く上でも大きな違いみたいなのがあると思いませんか? 私はその違いみたいなのがすごく面白いと思うんです。

笠井(以下、笠):面白いですね。よく教室でもその話をしますよ。変な話だけど男性の方が、絵が女性っぽいっていうことがよくありますね (笑)。どこか神経質で、細かいとこまで気にしていて、ある意味では繊細というか、きっちりしてるというか…。そういう風に見えちゃう。

永:でも、私そういうの好きで、鬼瓦 権蔵みたいな男の人がすごく可愛い繊細な絵を描いていたり、逆に小さい女の人が、ぐわーっていう大胆な絵を描くとか(笑)。その裏切られる度合いが大きいほど、すごいと思う。絵って進め方とか、終わり方とか、どこで諦めるかとか、そういうところに願望が出たり、本音が出たり、自分の中身が出るから、絵を見ると、見た目はこうでもこの人の中身はこうなんだーって思っちゃいますね(笑)

笠:ほんと、面白いですよね。

永:絵に限らず、何でも自分から出るものって、みんなそうだと思います。その人が絵を描く時に、どこで迷ってるのかなとか、ここ踏み切れてないとか、この人は綺麗に絵を描こうとして取り繕っちゃうんだなとか、壊せないなとか、絵を見ていると、その絵を描いた人の悩みが分かるんです。

笠:それを言うと怖がられるでしょう?この前、ある人の絵を見ていて、すごく客観的に全体をみていて、とてもいいんだけど、全然どこにも執着がない感じがするんで、そのことを本人に言ったら、あーっ!とか言って頭抱えちゃって。私の今までの人生のことを、ズバっと言われちゃったみたいな気がして今夜は寝れないって言って(笑)。実はこの人は何年か前に同じようなことを友達に言われたんだって。だから何かにこだわって生きてみようって思ったらしいんだけど、また僕に言われちゃったみたいで…。

永:あー、なるほどね。絵って、わがままにこれが描きたいっていうのがないと、見る人に共感されないところがあると思うんです。でも好き嫌いなく、どんなものでも丁寧に描くということも、その人そのものだから、中々変えようがないんですけど。私の場合、そういう場面に出くわすと、この人はどんな物を描いたら感情的になるのかなとか、考えちゃったりします (笑)。

笠:それって、いろんなことに当てはまるかも。

永:絵を勉強しに来る人のバックグラウンドっていうものが、暇を持て余す人や、ただ絵が好きだって人もいれば、月に一回とか二回どうにかその時間を捻出して、一生懸命教室に来て、もうその時間だけ全て忘れて絵を描くことに没頭する人もいますし、色々なんですよね。

笠:そうなんですよね。だからこそ、指導っていうのは難しいんですよね。ただ楽しんで描いてもらえればいいっていうのもあるけど、どうせやるんだったら、ちゃんとやった方が、より自分の為になるし解放感もあるだろうしって思うし…。みんな絵を描きたいっていう度合は違うじゃないですか?だから悩んじゃうんですけど。でもやっぱり、教室から帰る時に「すっきりした」って言って帰ってくれるのが一番嬉しいですよね?

永:ああー、そうですね。楽しかったーとか。いい顔になってくれたりね。そういう意味では「絵を描く楽しみ」があるというのは幸せなことですね。

笠:よく生徒さんとその話します。今こうやって絵を描けるっていうのは、本当に贅沢だと思いますよって。

永:自分の為に時間を使えるっていうのは一番贅沢ですよね。私も贅沢だと思うわ。

笠:僕も前のように会社勤めしてたら、とてもじゃないけどできない。実際、描かなかったし。

永:そうですよね。今やっている教室のあるクラスで、なんと九十歳の方が二人もいるんです!九十歳っていったら、普通なら体力的にも限界があるでしょうし、維持するだけでも大変だと思うんです。それがね、色んなことが上に向いてるんですよ。技術的にもどんどん上手になっていってるんですよね。だから四十、五十歳はまだまだこれからだと思って。

笠:ほんとほんと。全然若いですよ。会社にいる時のことと、つい比べちゃうんですけど、会社にいるとやっぱり中堅以上になってきちゃうじゃないですか?下の方が多いわけだし。そうすると、もう上の立場でしか会社の中でいられなくなってくる、それが嫌だから会社を辞めたっていうのもあるんだけど(笑)。だけど今や先生若いからって平気で言われちゃいますから、毎日毎日。

永:笠井さんが教室のクラスの中で一番若いんじゃないですか?

笠:そういう時もあります。この間ある生徒さんが、僕がいない時に僕のことを、もう本当に息子みたいに思う時があるわ。みたいに言ってたらしいんですよ。僕が息子ってね(笑)。おもしろいですよね、生徒さん達って。元気ですよ。絵を描きたいっていう、やる気や熱意や前向きな気持ちのある人たちが集まってるから元気なのは当然なんだけど、年をとるってこんなに元気なことなんだって(笑)。会社辞めて、教室をやってから初めて思ったんです。

永:よく言うのが、何かを始めようと思ったら、今日が一番。一日でも若い時に始めたほうがいいじゃないですか?それって、今日なんですよね。明日より今日が人生の中で一番若い時だから。やっぱり、何かやろうと思ったら今やったほうがいいですよね。今度やるとかじゃなくて。

笠:ほんと、そう。さっきの話に戻っちゃうかもしれないけど、教室に絵を勉強しに来るじゃないですか?三時間なら三時間、二時間なら二時間で、絵を描いたりとか、色々注意されたりとかして、終わって帰る時に外に出たら教室に来た時と世界が違って見えるっていう。外に出るとなんか全部がパースに見えたりして(笑)。そういうのってすっごい、いいじゃないですか(笑)。

永:そういう思考回路になっちゃいますよね。何を見ても、あ!この色はどう表現すればいいの?って頭の中でパレットを開いてる。

笠:あ!この影―!とかね(笑)。光と影ってずっと言われてたら、もう外に出たら、そればっかり気になっちゃってね。でもそれってすごい幸せなことじゃないですか?

永:私ね、自分でもこんな色使えたんだとか、自分でもこんなことできたんだって言う風に、絵を描いていて驚く時があるんです。そういう経験って少なからず多分みんなにあるはずで、「自分発見」とか言うと、大袈裟ですけど (笑)でもそんな身近なことで新しい、へー、私ってこうなの?っていうのが分かったら、そんな楽しいことはないと思うんですよね。

笠:そうですよね。今はね、僕なんか逆に生徒さんから教わることがいっぱいあるし。「ああ、そういう風に感じるんだ。ああ、なるほどな。」「あっ、そういう風に見えてるんだー。」っていうのがあったり、逆に僕が生徒さんに言ったことで、そう思ってくれてるのかも知れないんだけど…。そこはいいですよね。そういうのってやっぱり教室を主宰してなければ、自分一人で描いてるだけじゃ分からないし。だから教室やってるのすごくいいなって思いますよ。本当に。

永:こんな楽しい対談もできましたしね(笑)

2008.3.7 大塚アトリエにて